てきとー。

 雑踏の中、懐かしい声が聞こえた。
(未だに、声で判るものなんだなあ……)
 漏れてきた苦笑に、隣を歩く女が訝しむ。
 なんでもないからと、それを手で制して声のする方に目を向ける。
 僕の知らない男と腕を組んだ彼女が、獲物を見つけた猫のような目をぶつけてきた。
 向こうを歩く彼女と擦れ違う瞬間。僕らはお互い、ほぼ同時に、口の端を歪めた。
 彼女のは巧い具合に「ニヤリ」って感じだったけど、僕のはどうにもぎこちなかったように思う。